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なぜ悲鳴嶼行冥の髪型はツーブロックなのか?(第7回)

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2021/02/20 18:00

稲田ズイキ

稲田ズイキ

これは、僧侶が『鬼滅の刃』を読み解く連載の第7回目である。

この連載では、『鬼滅の刃』に感動した一人の僧侶が、鬼滅をどのように読み、解釈したのか、できる限りその一つ一つを言語化し、さらなる鬼滅の魅力を見つけていく。

※以下、ネタバレに注意してください

第1回〜第6回が気になる方はこちらからどうぞ。

さて、僧侶が鬼滅を語るこの連載、今回は満を持して、悲鳴嶼さんについて語っていこうと思う。

初めて悲鳴嶼さんを見たとき、テンションが上がりました

というのも、

悲鳴嶼さんがアニメに登場すれば「これお前やんw」とメッセージが送られてきたり、誕生日には悲鳴嶼さんのフィギュアが届いたり、お寺で念仏を唱えていたら子供から「悲鳴嶼さんみたい」と言われたり。

つまり、鬼滅の認知度が浸透していった結果、現実に存在するリアル僧侶に、日本国中が悲鳴嶼さんの面影を見ている事態になっているのだ。この連載の開始当初においても、僕の担当編集から「バナーのイラストは悲鳴嶼さんでいいですよね?」と当然のような"悲鳴嶼推し"をくらってしまった。待て待て、みんなちょっと落ち着いて!

今回、僧侶である僕が悲鳴嶼さんを語るということは、それくらい満を持しているわけだ。はたして、僕はこのガン上がりしたハードルを超えられるだけの悲鳴嶼語りができるのだろうか……?

というわけで、今回用意したトピックはこちら!

「なぜ悲鳴嶼行冥の髪型はツーブロックなのか?」

である。

悲鳴嶼行冥に感じる僧侶のリアル

「そんなこと作者の吾峠先生以外誰にもわからないだろ」と言われたらそれまでなのだけれど、僧侶の僕からすると悲鳴嶼さんがツーブロックであることは、鬼滅を語る上での象徴的な大事件(!?)なのである。

数珠、合掌、南無阿弥陀仏の文字。柱合会議の初登場シーンで、多くの人が悲鳴嶼さんのビジュアルを見て、「僧侶だ!お坊さんだ!」と思ったんじゃないだろうか。同時に、これまで読んできた漫画の中のいわゆる僧侶然とした「僧侶キャラ」が脳裏に浮かんだはず。そう、僧侶キャラ自体はそんなに珍しいものではない。

でも、次のタイミングで、びっくりしたはずだ。

僧侶キャラかと思いきや、とんでもないことを言い放つ

めちゃくちゃ怖いことを言っているのだ。「僧侶なのに!?」という衝撃。

でも、身寄りのない子どもたちを寺で育ててはいたけれど、実は作中で悲鳴嶼さんが「僧侶である」ことは明言されていない。とはいえ、限りなく見た目は僧侶っぽい。

ここで、よく漫画を読んでいる方は僕と同じく、このように思ったのではないだろうか。「ははーん、そっちのタイプね」と。

僕の分析の限りでは、漫画で描かれる僧侶キャラは、悟り切った"ブッダ型"と、俗にまみれた"煩悩型"の2種類が存在する。前者は文字通り聖人のようで、後者は基本的にだらしがないが、時たまに良いことを言ったりする愛されキャラである。これらの2つが僧侶キャラというもののテンプレートだと思っていた。そして、悲鳴嶼さんは"煩悩型"だと最初は思っていた。

ところが、よくよく読むと、この悲鳴嶼さんはどちらのカテゴリにも属さないのだ。

炭治郎を殺して救済しようとする場面も

先入観が強いという意味では"煩悩型"に振り切っているかと思いきや、

炭治郎の功績を真正面から認める悲鳴嶼さん

とても慈悲深い"ブッダ型"に近しい一面を持っている。とはいえ、決して悟ったような見せ方はしない。自分の溢れる煩悩を一つ一つ確かめて、少しでもその煩悩をいなすように修行していると思われる。

つまり、"ブッダ"型と"煩悩型"が同居しているのだ。言い換えるならば、煩悩と悟りの間で揺れていると言えるだろうか。こんなキャラクター像を見せられては、僧侶の僕はいてもたってもいられなくなる。

「そうそう、これがリアルな僧侶像だ!」と。

僧侶というのは"悟った"存在、言い換えれば、もう変化をすることのない"完成した"存在として見られがちだ。でも、個人的に僕もそうだし、仏教の本来的な意味でも、僧侶の"悟り"とは決して"状態"で語られるものではなく、ずっと"連続"しているものなのだ。簡単に言えば、ずっと自分の煩悩と向き合い続けている、健気な人。それが僧侶というものの基本的な生き方であり、決して"聖人"としては完成されていないというのが本当のところだ。

そんなリアルな僧侶像と、この悲鳴嶼さんは重なる気がするのだ。だから、この悲鳴嶼さんに対しては「今まで少年漫画では描かれることが少なかった、デフォルメやテンプレート化をされていないリアルな僧侶像を描こうとしたのではないか?」とさえ思ってしまう(正確には悲鳴嶼さんは「僧侶」なのかは分からないのだけど)。

そもそも、この連載では、『鬼滅の刃』は鬼殺隊と鬼という対比構造を使って、仏教でいう煩悩と悟りの関係性を表現しているのではないかと考察してきた。つまり、悟りと煩悩がコインの裏と表の一対の関係であるように、人間と鬼は決して別の生き物なのではなくて、実は同じ直線上で繋がっているのではないか、どのキャラクターも人の要素と鬼の要素の両方を持っていて、両者の間で揺れているのではないか、と。

その考察を前提にするならば、まさに悲鳴嶼さんは、煩悩と悟りの間で揺れる『鬼滅の刃』という物語の象徴になっている存在のように見えてくるのだ。しかも、今までの少年漫画史で完成されたキャラクター像として描かれてきた"僧侶"という要素を持ったキャラが、その"揺れ"を担っているのは僧侶の僕からしたら革命的なことなのである。

なぜ悲鳴嶼さんの髪型はツーブロックなのか?

で、本題。煩悩なくして悟りはない、そんな関係性のことを仏教では「煩悩即菩提」と言ったりするが、その同居性がシンボリックに描かれているのが、悲鳴嶼さんのツーブロックだと思ったのだ。

なんでツーブロックなの?

疑問に思った人もいるかもしれない。なんでこんなに限りなく僧侶に近いキャラなのに、髪型がツーブロックなのかと。安直に「そこは普通、丸坊主だろ?」と。いや、髪型くらい悲鳴嶼さんの自由にしてあげたいのだけれど、一貫性という意味ではどうしても気になって。

仏教では、髪の毛は煩悩の象徴。宗派によるが、現代でも僧侶がなぜ髪の毛を剃るのかというと、煩悩と向き合っていく姿勢を表しているからである。それでいうと、ツーブロックは剃髪とまではいかないが、刈り上げの側部と、長髪の頭頂部との組み合わせによって、成り立っているヘアスタイルなのだ。

そう。この悲鳴嶼さんのツーブロックは、刈り上げ部分で「半分悟り」、長髪部分で「半分煩悩」を表現しているのではないだろうか。つまり、悲鳴嶼さんは「煩悩即菩提」を髪型でやっているのだ。言い換えるなら、髪型で信仰の形を表現するニュースタイルの仏道とも言える。

彼固有のヘアスタイルが生まれた瞬間を想像するに、筆舌尽くせない物語があったのではないだろうか。髪の毛をすべて刈り上げようと思った瞬間、きっと思ったに違いない。「いや、まだ自分の煩悩を自覚しきれてない」と。悟ったフリ、煩悩がないフリをするのはやめようと。刈り上げに悟りを、長髪に煩悩を込めて、彼は二つの構造を一つの髪型に落とし込んだはずなのだ。

悲鳴嶼さんは子供に対して強い憤りがある

物語の中で描かれるが、悲鳴嶼さんの疑い深い性格には、過去の悲しい事件が関係していた。仏教的に言っても、誰もが初めから煩悩を持っているわけではない。過去の痛みから、他者への思い込み、怒りといった心は生まれていく。

そんな煩悩を一つ一つ自覚し、受け止めていく中にこそ、仏教の修行はある。自省と鍛錬。悲鳴嶼さんの中で同居している「煩悩」と「悟り」の要素は、まさに仏教でいう修行僧のリアルに限りなく近い。

鬼滅では、反復動作として「念仏」を唱えるキャラクターがいる

さらにいえば、悲鳴嶼さんが唱える「南無阿弥陀仏」という言葉。それは仏教では「念仏」と言われる行為であるのだが、知らない人からは「呪文や魔法を唱えている」と勘違いされることも多い。念仏とは、簡単に説明すれば、自分が煩悩まみれであることを自覚し、心を整えるために行っている習慣みたいなものだ。

そんな念仏だが、フィクション作品の中では、唱えたら何かが召喚されたり、何か天変地異が起こったりと、"呪文"としてデフォルメされやすい。しかし、鬼滅で描かれているのは「反復動作」であり、集中するためのルーティンとして描かれている。その描き方も、悲鳴嶼さんの性格とも相まって、かなり仏教の実像に近いリアルなものと言える。

ちなみに、悲鳴嶼さんと対照的に描かれていると思うのが、童磨の万世極楽教だと思う。彼は仏教ではないものの、同じ"宗教"を背負っているキャラとして描かれているが、彼がやっているのは形骸化した救済であり、自省の目を持たない。

炭治郎を救っているように見えて、実は悲鳴嶼さんも救われている

悲鳴嶼さんは、過去の痛みと自分の煩悩にずっと向き合っている。すべてから解放されて、自由になりたい。でも、そんな勝手な自分を許すことができない。そんな彼の煩悩と悟りが拮抗した精神性が、彼のツーブロックに込められている。一人の僧侶の目からはそう見えた。



僕の初めての著書『世界が仏教であふれだす』が集英社から発売されました。自称「世界で一番敷居の低い仏教本」となってるので、仏教に興味を持った人がいたらチェックしてみてください!

鬼滅の刃
考察
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