Vログ

かつてない共感を描いてくれた作品。

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2020/09/11 23:59

潮沢悠紀

漫画・ゲーム大好き。

第1回Vログ大賞エントリー「ジャンプ作品の思い出」

◆漫画は「自分とは違うもの」ではなかった。

一つ前の記事にも通じるところですが、僕にとって漫画はどこかファンタジーで、「憧れ」を遠く眺めて楽しむものでした。
同時に、“分かりやすい少年漫画”とは、いわゆるスポ根か、広義の意味でバトルものか、はたまたラッキースケベ&ハーレムものか……みたいな思い込みもありました。
つまり少年漫画は、題材として僕の人生を照らし合わせられるような、真の意味での“共感”を得ることが皆無な娯楽だったのです。

しかし、それに少しずつ、変化が訪れます。

それは決して僕がスポーツが得意になったという意味でも超人的能力に目覚めたという意味でもモテ始めたという意味でもなく、
2000年頃から、オーケストラや吹奏楽を題材にした漫画・ドラマ・映画が人気を集めるようになった、という変化でした。

つまり、僕が青春の全てを捧げ、社会人になってもなお拘り続けている、音楽を題材にした作品たちの台頭です。

2013年に連載がスタートした『SOUL CATCHER(S)』は、まさにかつて吹奏楽部員として僕が通った道の上にある作品であると同時に、「おかえり!!」と両手を上げて喜んだ作品でした。

◆神海英雄先生との出会い。

それは、まったくの偶然なようでいて、必然だったのかもしれません。

過去のVログで書いた通りに、僕は久保帯人先生も大好きで、『BLEACH』アニメ化決定の報を大々的に伝える2004年夏の赤丸ジャンプは見逃せないものでした。
さらに『ヒカルの碁』に続いてとんでもなく面白い物語を提供してくれていた『DEATH NOTE』の単行本着せ替えカバーなんかも付いていて、手に取る以外の選択肢がない号でした。

そこに、神海先生のデビュー作にして吹奏楽漫画である『アンサンブル』が掲載されていたのです。

衝撃でした。

え、吹奏楽が、漫画に?
え、久能と伊勢崎がこだわること、めっちゃ分かるやん。
そうそう、そうなんだよ!
吹奏楽ってさ、こんだけ熱いんだよ!!
俺が通った青春もこうだったよ!!!

…こんな日が来るとは思ってもいなかった、漫画への真の意味での“共感”でした。
目に見えない「音楽」というものを“描く”難しさを乗り越え、少年漫画らしい熱い文脈に落とし込まれながらも現実味は残っている、「漫画で見る僕の青春」でした。

この瞬間から一気に神海先生のファンになり、以降の読み切りも週刊連載の『LIGHT WING』も全部読みつつ、いつかまた吹奏楽を題材にしてくれないかなと願っていたので、
『アンサンブル』掲載からおよそ9年、『SOUL CATCHER(S)』の連載が決まったときの感激は、懐かしい友に再会したような錯覚さえあったと思います。

◆【加筆修正】どこまでも音楽漫画で、どこまでも少年漫画だった。

『SOUL CATCHER(S)』の凄いところは、「音楽や、部活動としての吹奏楽の構造的な限界をしっかりと描き、多様な価値観を示しながらも、本質的に大事なことからブレずに描き切ったところ」だと思います。

音楽とは芸術で、芸術には技術的な巧拙が確かに存在します。
しかし技術的な巧拙は、必ずしも芸術の良悪には直結しません。
そして芸術の良悪は、どこまでいっても主観的な判断であり、客観的な・大衆的な“総意”は、ふつう存在し得ません。

ただ、部活動である吹奏楽には、競技としての側面があります。
つまり主観的な判断によって評価が下る、審査(コンクール)にかけられるのです。
そうなると、最高の評価を目指して、分かりやすく審査しやすい技術の巧拙にこだわってしまいがちになるのです。
技術の巧拙は、芸術の良悪に直結しないはずなのに。
芸術の良悪は、どこまでも主観的な、“感情の揺れ”=“心にどう届いたか”でしかないはずなのに。

僕自身の青春時代を思い返してみても、まさにこのジレンマを認識しながら直視しないような偏重的な側面はありました。

「コンクールで金賞以外には“価値がない”」
「全国大会に行けなかったら“伝統を穢す”」

頭の片隅でこんな強迫観念に駆られながら、365日朝から晩まで吹奏楽漬けだった側面があったのです(もちろんそれだけじゃなく、純粋に楽しんでもいたのですが!)

作中でも、ライバル校のキャラクターは「吹奏楽は勝負!」「結果がすべて!」と豪語し、
続けて「そんなやり方はもはや『音楽』じゃない・『芸術』じゃないとか言う人もいるけど」「わたしに言わせれば全然的外れ」「だって“結果的に”演奏者も観客も楽しんでんだもん」と宣言します。
“競技としての吹奏楽”を否定しない、「勝つ」ことにこだわる音楽もあるのだと認める、素晴らしいセリフだと思いました。

一方で主人公たちは、「音を出すのは人の心だ」と繰り返し繰り返し述べていました。
他にも、
「ある人にとっては気持ちいい音楽でも 別の人には騒音にしか聞こえねェみたいに… 感じ方はひとそれぞれだ」「音楽ってのは」「そういうもんだ」とも。

そして、「わかってるの」「気持ちだけで獲れる程 金賞は甘くない」「でも 忘れてない?」「そもそも」「音楽って」「気持ちを伝える手段でしょ」とも。

どれだけ技術的に素晴らしくても、心がこもっていなければ、他人の心に届かない。

作品の主軸は評価=勝ち負けを競うコンクール(=まさしく少年漫画的な!)でしたが、芸術の本質を忘れない、読んでいてスカッとする名調子でした。

余談ですが、この当時には僕自身が後進の指導にあたる立場になっており、若い学生さんたち相手にレッスンをつけることも多かったのですが、
「巧くなりたい」という生徒の欲求に「音楽の楽しさを見失わない」という本質を添えて指導するように心がけておりました。
その大切さを『SOUL CATCHER(S)』は改めて示してくれたのです。

◆【追記】その凄さを伝えたい。

少しマニアックな視点になりますが、作中で取り上げられていた演奏曲にも相当のこだわりを感じ、説得力があったというところも語らせてください。

吹奏楽コンクールでは、地方予選から「課題曲」と「自由曲」という2曲を一貫して演奏して勝ち上がっていきますが、この「自由曲」にその吹奏楽団のカラーが色濃く出るものだったりします。

主人公である神峰たちの学校が選んだのは、C.T.スミスの「華麗なる舞曲」。
これが自由曲だと明かされたとき、僕は「げええええええ!?」と叫びながら愕然としました。

なぜかと言えば、この曲は並の吹奏楽愛好者なら「“ちゃんと吹けたら”カッコイイよね」「いつかは吹けるようになりたいけど…」という感じで、
ちょっと一線置きたくなるくらいの超絶難関曲だから!!

早々に諦めたくなるくらいに難しい!!
でもカッコイイ!!
でも難しい!!

そういう気持ちが錯綜する、おおよその奏者にとっては“羨望曲”の類なのでした。

『SOUL CATCHER(S)』の作中年代と現実を照らし合わせてみても、
神峰たちがコンクールに臨んでいる時点で「華麗なる舞曲」を自由曲に選んで全国大会に上がってくることができた高校は、
70年ほどの歴史を数える吹奏楽コンクール史において“たったの4校”だった…という事実から、
その楽曲の難しさ、「ふつうは選ばない」ほどの難曲である雰囲気は感じていただけるのかなとも思います。

◆【追記】技術も磨く。心も繋ぐ。

しかしながらこの曲は、神峰たちにこそ相応しいと言えるような曲でもありました。

なぜかと言えば、この楽曲が

・各楽器のソロがあり(=協力関係を築くことができた各パートリーダーたちに見せ場があり)
・ほぼ全員で高速で同じリズムを吹き(=奏者全員との一体感と高い技術力が必要で)
・不安になるようなハーモニーすらも美しく聴かせなければならない(=作中の最後の最後になって手に入れた「正解の音」のセンスが必要になる)

からに他なりません。

先程僕は「部活動である吹奏楽においては、最高の評価を目指して分かりやすく審査しやすい技術の巧拙にこだわってしまいがちになる」と書きましたが、
技術力で圧倒することも否定はせず、しかしそれだけでは到達できない“根本”の部分もしっかりと描ききった、
『SOUL CATCHER(S)』という作品が歩んできたストーリーの集大成として、本当に説得力のある選曲だったのでした。

……興味を持ってくださった方のために、この曲の演奏動画も貼り付けておきます。
技術的なことは分からなくても「とにかくカッコイイ」「ソロの楽器緊張しそう」みたいなことが伝われば嬉しいです。

◆【加筆修正】「音楽の感じ方は人それぞれ」

最後まで読んでいただきありがとうございます。
またまた長くなってしまい、申し訳ないです。

「音楽の感じ方は人それぞれ」

奇しくもこれは、吹奏楽部員として青春の全て捧げてきた僕が、現役時代に顧問の先生から繰り返し聞かされてきた言葉でもありました。

だからこそ音楽には無限の解釈があって、だからこそどの演奏だって素晴らしい。

そういう結論をもって僕は今も音楽を続けているのですが、
一方で『SOUL CATCHER(S)』が描いてきたのは、
「人それぞれだからこその、“共感”できることの難しさと素晴らしさ」だったなと、改めて感じています。

音楽を通じて“共感”を描いた、
そして僕にまるで漫画の中の登場人物ような“共感”をくれた『SOUL CATCHER(S)』への最大級の賛辞と感謝を添えて、
いつまでも止まらない筆を置こうと思います。

関連書籍ももちろん集めています。
少年ジャンプ
第1回Vログ大賞

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